「当事者研究とは?」を伝える:まちがく×NPO法人ある第2回当事者研究講座

西宮の新しい学びのカタチ「まちがく」にて、7月に行った当事者研究の講座にご好評いただき、この度第2回目となる「自分を研究してみる当事者研究2」を行いましたので、その内容をご紹介します。

7月に開催した第1回「自分を研究してみる当事者研究」レポートはこちら。

 

まちがく:当事者研究講座タイトル

まちがく× NPO法人ある当事者研究講座

西宮の新しい学びのカタチ「まちがく」で開催された当事者研究講座には「当事者研究 ってなに!?」と知らずに参加した人が多かったにも関わらず、講座後には「もっと地域に広がって欲しい」と好評を得た当事者研究のやり方や理念をお試し体験できる講座のレポートです。

当事者研究講座レポート

「自分を研究する当事者研究2」というタイトルで開催された講座は、15人の参加があり、満席となりました。

「前回の記事を見て気になった」や「当事者研究とは?」という方が多く参加してくださっていて当事者研究に前向きな関心が寄せられており嬉しかったです。

 

講座概要

  • 講座名:「自分を研究してみる当事者研究2」
  • 日 時:2024年8月21日(水)19:00 – 21:00
  • 場 所:リタリコ西宮センターキャンパス
  • 人 数:15人
  • 内 容
    「当事者研究とは?」という疑問にお応えする講座と「当事者研究」のお試し体験をするグループワークを行いました。
  • 目 的:当事者研究を知ってもらう。体験してもらう。

講座内容

本講座では「当事者研究とは?」と好奇心をもって集まってくれたみなさんに「苦労を題材にして、自分を研究する」当事者研究を実際に体験していただくグループワークを中心とし、3グループに分かれ、合計で6つのテーマの当事者研究を行いました。

 

7月の回で1テーマ30分の時間配分で行ったところもう少し時間にゆとりがあった方が良いと感じたので、今回は1テーマ45分でワークを行いました。

 

グループワークの流れ

ワークは以下の流れで進めます。

  1. 苦労の共有
  2. 研究テーマ選択
  3. テーマ毎の研究 

テーマ選び

グループ内でまず「みんなの苦労」を共有し、その中から当事者研究を行うテーマを選びます。

  • 「みんなに聞いてほしい」「一緒に考えてほしい」という当事者の希望
  • 「興味がある」「詳しく聞いてみたい」という他の参加者の関心
  • 「自分も同じような苦労がある」という共感

このような要素が大切にされながら、グループ全体で研究テーマを決定しました。

テーマ毎の当事者研究のグループワーク

ワークは、テーマ毎に以下の流れで進行します。

 

  1. 当事者さんにみんなでインタビューし苦労について詳しくお聞きします。
  2. インタビュアーから当事者さんに「発見」「共感」「対処方法のアイディア」を共有します。
  3. 当事者さんからインタビュアーに「発見」や「感想」を共有します。

ここからは各研究テーマについての概要をお伝えいたします。

※各テーマの「概要」はファシリテーター視点からのまとめの一つ」であり、参加者それぞれの体験を総括するものではありません。

研究テーマ1:ちゃんと働く気になれない

概要

「現在パートで勤務しているが、将来に経済的な不安があり見通しが立たない」という当事者さんのお話でした。

「そもそも人といるのが疲れる」という当事者さんは、現在のパート勤務にもしんどさを感じており、長い通勤時間も負担になっている状態です。一方で、現在の職種や職場には特に不満はなく、「本当にちゃんと働きたいのか?というモヤモヤもある」と、働くことに対する葛藤や迷いも丁寧に話してくださいました。

 

インタビューでは、当事者さんにとって「ちゃんと働く」とはどういうことなのか?何を大事にしたいのか?など、当事者さんの価値観の本質に迫る質問が多く出ました。

アイディア提案の時間には、当事者さんの特性を活かして収入を得るための、さまざまな具体的な方法が出されました。また、「働くことにこだわらなくてもいいのでは」「収入を得る方法は様々なので、色んな人に話を聞いてみる」など、あえて当事者さんの「ちゃんと」の枠を超えるような試みも提案されました。

当事者さんには、仕事とは別に情熱を注いでいる活動があるため、「活動を収入化できる仕組みを作る」「収入を作る期間と、やりたいことをやる期間を分ける」「誰かと一緒に事業化し、苦手な分野は他者に委ねる」といった、現在の当事者さんの活動と収入をつなげる方法も提案され、後半は「困りごとの解消」というよりも「無限に広がる夢」のアイディアが展開されました。

 

当事者さんからは「モヤモヤが少し整理された。自分のライフプランの方針を決めて、計画を練ってから動きたい。転職や、今やっている活動の収入化も考えてみたい」という感想をいただきました。当事者さんの今後の可能性をみんなで語り合うことでワクワクが広がり、明るい未来を作る楽しさが生まれた研究でした。

研究テーマ2:コーヒーを飲みすぎてしまう

概要

家でも職場でもよくコーヒーを飲む、という当事者さん。習慣で飲んでいるが、以前よりも量が増えていることに対して漠然と「体によくないのではないか」と感じている、ということでした。

 

インタビューを通して、当事者さんのコーヒーに対する独自のスタンスが明らかになっていきました。味にはそれほどこだわりをもっていない。仕事が忙しいときに飲むことが多い。頭を切り替えるために飲む。カフェラテ派(砂糖入り)。コスパを求めて箱買いしている。などなど……。

「なんとなく習慣でやってるけど、これって良くないのかな……」という微妙なラインのお悩みに対し、みんなからは「そんなに悪いことではないのでは」という肯定的な意見が多く出されました。コーヒーが健康に与える良い影響や、仕事中の脳に必要な糖分補給ができていること、飲まなくなることでむしろ悪影響が出る可能性が指摘されたほか、「飲むのは良くないのかな」をもっと「飲むのはむしろ良いこと」に変えていくためのアイディアも出されました。社会貢献につながるコーヒーを買う(フェアトレードや福祉事業所の商品など)、今よりも良質なものに代えて満足度は落とさずに量を減らす、などなど。

 

当事者さんは、「悩みとして出したが、逆にコーヒーでバランスをとっているのかなと思った」という発見を語ってくれました。また、コーヒーそのものに対する見方が変わり、興味が生まれ、「向き合い方を変えてみようかという気になった。趣味にしてもいいかも」ということで、これまで「困りごと」だったことが今後は「趣味」になるかもしれない……、という面白い研究になりました。

研究テーマ3:日中の眠気が強くて困る。病院にも相談に行き始めている。

概要

日中にどうしても眠たくなる時間帯、シチュエーションがあり、病院にも相談にいき、睡眠障害かも?という話ももらっているのだけれど……という困りごと相談を場に出していただきました。

 

運転や外での活動ではそうならないが、座学や会議、ただ立っているだけの時間があると、自分では眠気を止めておけないという状態で、顔を洗いに行ったりカフェインを試してみてはいるものの解決には至っていないということです。

 

インタビュータイムには夜の睡眠やお風呂の時間の使い方などについての質問も飛び、当事者さんの背景も踏まえてアイディアを考えることになりました。

 

眠くなったときに与える刺激をより強いものにする(具体的な内容については省略しますね)、寝る前1時間前のスマホの利用や湯船の使い方など睡眠の質を上げる方法なども出ましたが、職場で怒られるなど不利益がないのなら居眠り程度なら素直に寝たら?といった「無責任アイディア」の時間だから出てくるもの、他の職場の事例だがマットがある部屋を用意してアイマスクをして30分寝る職場もありそういう職場にしていくという周囲への提案型のアイディアもありました。

 

当事者さんとしては、障害は社会の問題だという障害の社会モデル的なアプローチも確かにあるな、という受け止めと、それだけではなく自分の努力、セルフケアの部分も大事にしつつ、治るものでもないからどう付き合っていくかを考える上で、「自己開示」をして理解してくれる人の輪をつくるという構造にも魅力を感じておられるようでした。

研究テーマ4仕事で腹が立つことが多いのだけど、口に出ちゃう。冷静な自分でありたい。

概要

プライベートではそうではないけれど、仕事において他者の発言などに以前と比べてすぐに腹が立つようになり、会議の場などで強めの言葉が反応として出てしまう、もう少し冷静な自分でいたいのに、という困りごとの開示でした。

 

最近そうした傾向が出てきたのでからだ由来の原因かもしれない、他者の意見を大事に扱うという姿勢を大事にしたい自分でもあるからこそ「また言っちゃった」と後悔する自分もいる一方で、言われたくないことを何度も言われるから強く言ってしまうケースもある、それでは周囲の反応は?といった具合に困りごとが起こる状況や心境についてのインタビューが進み、ストレスが溜まっている状況はないということを確認した上で、提案タイムを迎えました。

 

「『自分は感情豊かな人だから』と、先に周囲に伝えておく」「『イライラを止める漢方』と大きく書かれた薬を摂っている姿をこれみよがしに見せる」といった形で周囲に「自己開示」をしていくという提案たちを幹に、「何回も同じことを言われるなら言った方が良い」という現状の肯定、逆になりたい自分像があるなら転職して嫌な自分になる環境から離れるというアプローチ、同じ仕事をしている人全てに共感を求め期待しているからイライラしているのではないか?といった様々な枝葉の提案が出てくる豊かな場になりました。

 

今回の講座を開講してくださっている「まちがく」への提案として「セルフコントロール・アンガーマネジメント」の講座の開講希望も飛び出したこのワークは、「共感を期待してる私」「感情豊かな私」「言っちゃう私」「転職したくない私」を当事者さんが「発見」し、「自己開示」という「共有」について参加者さんも含め価値づけされた、「共有と目的」という目標設定の妙を当事者さん・参加者さんで強く意識できたものになりました。

研究テーマ5:夫婦の関係について悩んでいる

概要

夫婦の関係について困り事があるという当事者さん。
インタビューではご夫婦やご家族でのコミュニケーションや過ごし方について質問をしながら、当事者さん感じている苦労と希望する状況をみんなで探っていく時間になりました。

「わかってもらえない辛さ」と「旦那様のことがわからない辛さ」のどちらがより辛いかという質問から「旦那の考えていることがわからない方が辛い」と、当事者さんから気持ちが共有され、このテーマの大事な要因に迫ることができました。

インタビュー後は、参加したメンバーから、たくさんの共感の声、共通の経験、具体的な提案、助言が当事者さんに贈られました。

当事者さんからは「家族のことを話すのは恥ずかしい気持ちもあったが、他者の家と比べることができず、うちだけが辛いのかな?という気持ちになってしまうことがあったが、今日自分だけじゃないんだと知ることができて良かった。」という感想がありました。

当事者さんの感想をお聞きして「自分自身で、ともに」や「経験は宝」という当事者研究の理念を体験していただける機会になったと感じました。

研究テーマ6:自己紹介が苦手

概要

自己紹介が苦手というテーマでスタートしたインタビュー。
質問を重ねる中で、定番の内容に物足りなさを感じており、ちょっとしたエピソードや笑いがあり聞き手に良いと思ってもらえるような自己紹介をしたいという希望を持っていることがわかってきました。

いろいろな活動をしていることもあり、話題が取り留めなくなってしまうことが自己紹介が難しいと感じさせていることや、お題があればあまり困らないことなども共有されました。

インタビュー中に「好きなこと」に質問の焦点が当たったことをきっかけに対話が促進される場面がありました。
好きなことである写真撮影について質問が深掘りされ、フォトグラファーとしての活動を始めたきっかけが結婚式の写真だったことが明らかになりました。
友人の結婚式で写真を撮影したところ大変喜ばれ、それがとても嬉しかったため、更に技術を磨き、なんとプロになったというエピソードには感嘆の声があがりました。

当事者さんは「見る人をその瞬間や場所へタイムスリップさせる力がある」と写真の魅力を教えてくれました。


提案の時間では、「写真の話をしているときに生き生きしていたので自分がワクワクして楽しく話せることを自己紹介に入れる」という案、「事前に準備しておく。準備しておくことで、うまくいかなかった場合も学びにつながる。」という経験を交えたアドバイス、落語好きな参加者から「落語のつかみを参考にするというユニークな案が当事者さんに贈られました。

当事者さんは、インタビューを通じて自分の考えや気持ちが整理される感覚を体験できた。自分だけでは思いつかない提案もためになった。と感想を述べられました。

参加者の皆さんから、インタビューと提案のパート分けがあることで、アイディアが促進されたり、話しやすい場になっていると感じるという感想もいただきました。

参加者さんの感想

講座に参加いただいた皆さんから、たくさんの嬉しい感想をいただきました。

感想

  • 参加者のみなさんの否定せずに関わる姿勢がよかったです!
  • 皆さんからの意見を丁寧に板書していただき、様々な意見を見ながら発言できたのは良かったです。
  • いやぁ、シンプルだけど、皆さんで困りごとをこの手順で話し合うことで、これだけ豊かなアイデアが出るのか!と驚きと感動でした。私は今回当事者ではなかったのですが、実際に質問してアイデア出すのもとても楽しかったです。ありがとうございました!
  • 当事者、困りごとを決める。インタビューのときは質問以外しない。そして、提案、感想。流れがしっかりしていて、ファシリテーターが居ることでワークがスムーズに進むこと。
  • 解決を目標にしない、という事もすごく良いと思います。
  • 全員が同じ体験ができること
  • ファシリテーターさんが良かったので、本題からそれずに話しやすい雰囲気でした。参加者もやさしい感じの人達でした

※グループワークの良かった点や改善してほしい点をお聞きした回答です。

参加の理由

  • 「当事者研究」の話はべてるの家の本から少しだけ知っていたが、具体的な活動内容は知らなかったから。
  • グループワークでの当事者研究に参加してみたかった(自分で分析したものを発表するタイプの当事者研究には参加したことがありました)
  • 「当事者研究」なるものがどんなものか体験したく参加しました。
  • マチガクの企画メンバーです
  • 興味がありましたが前回は都合により参加出来なくて、今回は参加させて頂きました。
  • 好奇心から
  • 対面で参加してみたかった

アンケートの結果

アンケートの回答1
アンケートの回答2
アンケートの回答3
アンケートの回答3

当事者研究出張講座を承ります

  • 当事者研究講座のレポートを読んできただきありがとうございました。

NPO法人あるでは、当事者研究の講座を受講したい方のために出張講座を行なっています。

例えばこんな場面でも、

  • 当事者活動の場で受講したい
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